医薬品、医薬部外品、化粧品を取り扱う事業者はもちろん、広告を出稿するすべての事業者は薬機法を理解しておかなければなりません。
では、薬機法とはどのような法律であり、何を規制対象としているのでしょうか?
また、薬機法に違反すると、どのような事態が生じるのでしょうか?
今回は、薬機法の概要や規制内容、違反した場合の罰則などについて、弁護士がくわしく解説します。
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薬機法とは
薬機法の正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」であり、保健衛生の向上を図ることを目的としています(薬機法1条)。
この目的を達成するため、医薬品等の品質や有効性などについて規制を設けているほか、医療上特にその必要性が高い医薬品などの研究開発の促進のために必要な措置などについて定めています。
また、薬機法では医薬品などの安全性を確保するため、広告に関する規制も設けられています。
この広告規制の対象は「何人も」とされており、医薬品などの製造販売を行っていない者も含むすべての者が対象である点に注意しなければなりません。
具体的な規制内容については、後ほどくわしく解説します。
薬事法との違い
薬機法は以前、「薬事法」という名称でした。
2014年に施行された「薬事法等の一部を改正する法律」により、現在の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」へと名称が変わっています。
改正後の名称は長いため、「薬機法」と略されることが多いでしょう。
つまり、「薬事法」は、薬機法へと改正される前の旧名称ということです。
薬機法とは別に薬事法という法律があるわけではありません。
薬機法による主な規制対象品
薬機法では、次のものが規制対象とされています。
- 医薬品
- 医薬部外品
- 化粧品
- 医療機器
- 再生医療等製品
ここでは、それぞれどのようなものが該当するのか、概要を解説します。
医薬品
医薬品とは、次のいずれかに該当するものを指します(同2条1項)。
- 日本薬局方に収められている物
- 人または動物の疾病の診断、治療、予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具等でないもの(医薬部外品と再生医療等製品を除く)
- 人または動物の身体の構造または機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、機械器具等でないもの(医薬部外品、化粧品、再生医療等製品を除く)
病院にかかった際に処方される薬やドラッグストアで購入できる薬など、一般的に「薬」としてイメージされるものは、原則としてこの医薬品に該当します。
他に、血液学的検査薬などの体外診断用医薬品も、この医薬品に分類されます。
医薬部外品
医薬部外品とは、次の物のうち人体に対する作用が緩和なものを指します(同2項)。
- 次のいずれかの目的のために使用される物であって、機械器具等でないもの
- 1.吐き気その他の不快感または口臭・体臭の防止
- 2.あせも、ただれなどの防止
- 3.脱毛の防止、育毛または除毛
- 人または動物の保健のためにするねずみ、はえ、蚊、のみなどの生物の防除の目的のために使用される物であって、機械器具等でないもの
- 医薬品としての使用目的をもつ物のうち、厚生労働大臣が指定するもの
たとえば、うがい薬や殺虫剤、染毛剤、栄養ドリンクなどが医薬部外品に該当します。
化粧品
化粧品とは、次の目的で身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物のうち、人体に対する作用が緩和なものを指します(同3項)。
- 身体を清潔にする
- 美化する
- 魅力を増す
- 容貌ぼうを変える
- 皮膚または毛髪を健やかに保つ
ただし、これらの使用を目的とするものであっても、医薬品としての効用も併せて期待されるものや、医薬部外品は除外されます。
一般的な化粧品のほか、シャンプーやスキンケア用品などが化粧品に該当します。
医療機器
医療機器とは、次の目的で使用される医療機器等のうち、薬機法施行令で定めるものを指します(同4項)。
- 人または動物の疾病の診断・治療・予防に使用されること
- 人または動物の身体の構造や機能に影響を及ぼすこと
たとえば、ペースメーカーや人工関節、超音波画像診断装置などがこれに該当します。
再生医療等製品
再生医療等製品とは、次に掲げる物のうち、薬機法施行令で定められているものを指します(同9項)。
ただし、医薬部外品と化粧品は除かれます。
- 次に掲げる医療または獣医療に使用されることが目的とされている物のうち、人または動物の細胞に培養その他の加工を施したもの
- 人または動物の身体の構造・機能の再建、修復、形成
- 人または動物の疾病の治療または予防
- 人または動物の疾病の治療に使用されることが目的とされている物のうち、人または動物の細胞に導入され、これらの体内で発現する遺伝子を含有させたもの
たとえば、心筋の細胞シートなどの細胞加工製品や、欠損した遺伝子を人の体内に投与する遺伝子治療用製品などがこれに該当します。
薬機法の主なルール1:許可・登録に関する規定
ここからは、薬機法の主な規制内容について解説します。
主なルールの1つ目は、許可や登録に関する規定です。
薬機法の規定により、次の行為を業として行うためには、必要な許可を受けなければなりません。
許可を受けずにこれらの行為を行った場合は、無許可営業として罰則の適用対象となります。
- 薬局の開設(同4条1項)
- 医薬品、医薬部外品または化粧品の製造・販売(同12条1項)
- 医療機器または体外診断用医薬品の製造・販売(同23条の2 1項)
- 再生医療等製品の製造・販売(同23条の20 1項)
- 再生医療等製品の製造(同23条の22 1項)
- 医薬品の販売(同24条1項)
- 高度管理医療機器等の販売・貸与(同39条1項)
- 医療機器の修理(同40条の2 1項)
- 再生医療等製品の販売(同40条の5 1項)
また、薬機法には登録制度も設けられています。
次の営業を行うためには、登録を受けなければなりません。
- 医療機器または体外診断用医薬品の製造(同23条の2の3 1項)
薬機法による許可や登録を受けるには、必要な要件を満たす必要があるうえ、営業が可能となるまでには相当の日数がかかります。
そのため、これらの営業をしようとする際はできるだけ早期に専門家へ相談したうえで、計画的に準備を進める必要があるでしょう。
薬機法の主なルール2:広告規制
薬機法の主なルールの2つ目は、広告規制です。
先ほども解説したように、広告規制は医薬品などを取り扱わない事業者も規制対象となるため、すべての事業者がよく理解しておかなければなりません。
ここでは、薬機法の広告規制について、概要を解説します。
「広告」とは
薬機法の「広告」とは、次の3つの要件をすべて満たすものです。※1
- 顧客を誘引する (顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること
- 特定医薬品等の商品名が明らかにされていること
- 一般人が認知できる状態であること
テレビCMや新聞・雑誌への広告など、媒体が限定されているものではありません。
そのため、インターネット広告やSNSを活用したPRなども、広くこの「広告」に該当します。
薬機法で禁止されている広告
薬機法では、次の4つの表現が禁止されています。
- 虚偽または誇大な広告
- わいせつ表現などによる広告
- 特定疾病用の医薬品等に関する一般向け広告
- 未承認医薬品等に関する広告
虚偽または誇大な広告
1つ目は、虚偽広告や誇大な広告です。
薬機法では、「医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない」と規定されています(同66条1項)。
また、医師など医薬品などの効能や効果、性能を保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告することや、そのような記述をしたり流布したりすることは虚偽や誇大な広告に該当するとされているため、行ってはなりません(同2項)。
わいせつ表現などによる広告
2つ目は、わいせつ表現などによる広告です。
薬機法では、医薬品や医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品に関して次の表現をすることを禁じています(同3項)。
- 堕胎を暗示する文書または図画
- わいせつにわたる文書または図画
特定疾病用の医薬品等に関する一般向け広告
3つ目は、特定疾病用の医薬品等に関する一般向け広告です。
がん、肉腫、白血病に使用されることが目的とされている医薬品や再生医療等製品のうち、医師または歯科医師の指導の下に使用されるのでなければ危害を生ずるおそれが特に大きいものについては、医薬関係者以外の一般人を対象とする広告方法が制限されています(同67条1項、薬機法施行令64条)。
未承認医薬品等に関する広告
4つ目は、未承認医薬品等に関する広告です。
何人も、必要な承認や認証を受けていない医薬品や医療機器、再生医療等製品について、その名称や製造方法、効能、効果、性能に関する広告をしてはならないとされています(薬機法68条)。
広告規制の対象者
薬機法による広告規制の対象者は、「何人も」とされています。
つまり、医薬品等の販売などを手掛ける事業者はもちろん、それ以外の事業者であってもすべて対象になるということです。
たとえば、広告代理店やアフェリエイター、インフルエンサーなども広告規制の対象となります。
そのため、医薬品や化粧品などの広告案件を受ける際は表現などに特に注意しなければなりません。
また、健康食品は医薬品等ではないため、効果や効能を謳って広告をすると薬機法に違反します。
したがって、医薬品等をPRする場合はもちろん、その他の商品をPRする際も薬機法に抵触する表現となっていないか十分に検討しなければなりません。
広告表現に不安がある場合は、弁護士などの確認を受けることをおすすめします。
薬機法に違反するとどうなる?
薬機法に違反した場合、どのような事態が生じる可能性があるのでしょうか?
最後に、違反時の罰則などをまとめて解説します。
罰則が適用される
薬機法に違反すると、違反した規定に応じて罰則の適用対象となります。
たとえば、広告規制に違反して誇大広告や虚偽広告、未商品医薬品の広告などをした場合の罰則は、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはこれらの併科です(同85条)。
また、許可が必要な営業を無許可で行った場合は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの併科の対象となります(同84条)。
登録を受けずに登録が必要な営業を行った場合は、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこれらの併科に処されます(同86条1項)。
課徴金納付が必要となる
薬機法で禁止されている誇大広告や虚偽広告、未承認医薬品の広告をした場合には、課徴金納付命令の対象となります(同75条の5の2)。
課徴金納付とは、違反行為によって得た収益の一部を国に納める制度です。
薬機法の広告規制違反による課徴金の金額は、原則として、違反行為をした期間に取引をした課徴金対象行為に係る医薬品等の対価の額の合計額の4.5%とされています。
たとえば、所定の期間中に1億円を売り上げた場合、納付すべき課徴金額は450万円です。
ただし、計算した課徴金の額が225万円未満であるときは、課徴金の納付は命じられません(同4条)。
行政処分の対象となる
薬機法に違反した場合、違反の内容に応じて行政処分の対象となることがあります。
行政処分の内容は、医薬品等の回収命令や廃棄命令、業務停止命令、許可や登録の取消しなどです。
特に、業務停止が命令されたり許可や登録が取り消されたりすると影響が長期に及ぶ可能性が高くなるほか、事実上業務の継続が困難となるおそれがあります。
企業の信頼が失墜する
一定の薬機法違反をした場合、違反事例などが厚生労働省のホームページなどで公表されます。
その結果、企業の信頼が失墜するおそれがあります。
医薬品などは身体に大きな影響を与えるものであり、重大な違反があった場合の信頼回復は容易ではないでしょう。
まとめ
薬機法の概要や主な規制内容について解説しました。
薬機法は、医薬品や医薬部外品などの安全性を確保する目的で設けられている法律です。
この目的を達成するため、医薬品などの品質や有効性などについて定めるほか、許可制度や広告規制などが設けられています。
薬機法に違反すると罰則の適用対象となるほか、課徴金納付命令や行政指導の対象となる可能性があります。
万が一にも違反することのないよう、薬機法の内容を正しく理解したうえで、違反しないための社内体制構築などに努めましょう。
Authense法律事務所では、企業法務に特化したチームを設けており、薬機法に違反しないための広告審査などについても多くの実績があります。
薬機法を遵守する社内体制を構築したい際や、広告審査をご希望の際は、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。